研究コラム

身体の内側から乾癬の症状をコントロールするNMN

NMNは、頑固な乾癬に身体の内側からアプローチする救世主!?
乾癬とは?
乾癬(かんせん)とは、皮膚が慢性的に炎症を起こす皮膚疾患です。乾癬を発症する原因は明らかになっていませんが、遺伝による免疫機能の異常に由来することが分かってきました。
また、生活習慣やストレスなども発症を誘発、あるいは症状を悪化させると考えられています。

乾癬にはいくつかの種類があり、症状が異なります。最も一般的なのは尋常性乾癬で、皮膚が赤く盛り上がり、剥がれ落ちる症状を繰り返します。また、爪が白く濁ってもろくなったり、かゆみを伴うこともあります。
治療には塗り薬や紫外線療法、内服、注射などの方法があげられますが、いずれも対処療法でしかありません。再発率が高いため、ケースバイケースで治療を継続することが重要になってきます。なお乾癬は感染症ではないので、人から人にうつることは100%ありません。

NMNの炎症軽減への期待
NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)は、NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の前駆体であり、摂取すると体内でNAD+に変換されます。NAD+はタンパク質機能やエネルギー代謝に関与するとともに、さまざまな疾患の治療において効果が期待できる成分であることが報告されています。その有益な効果の1つに、NAD+の抗酸化作用や抗炎症作用による炎症抑制効果があります。
今回ご紹介する研究では、体内のNAD+を増加させるNMNが、慢性炎症性皮膚疾患の1 つである乾癬の予防・また回復に影響があるのか否かを検証しました。

実験の内容
この研究は、この実験は、乾癬の治療におけるNMNの役割の可能性を探ることを目的に実施したものです。

実験では、体毛の一部を剃ったマウスを用意し、
①無処置のマウス
②皮膚に乾癬惹起剤であるイミキモド(IMQ)※1を5日間塗布し乾癬に似たような病態を生じさせたマウス(IMQマウス)
③イミキモド(IMQ)を5日間塗布した上で500 mg/kg/日のNMN を同期間経口投与したマウス(IMQ + NMNマウス)
の3グループに分けてそれぞれの皮膚の状態を観察しました。

※1:ウイルス性感染症に対して効果を発揮するイミダゾキノリン系の合成低分子化合物。炎症性サイトカイン産生を促し、外用する場合、紅斑や浮腫、表皮剥離などの副作用を生じる可能性がある。
今回はイミキモドをマウスの皮膚に塗り、人為的に肌荒れのような病態を生じさせた。

【実験から得られた結果】
抗炎症作用に対する評価
イミキモド(IMQ)を塗布して乾癬に似たような病態を生じさせたIMQ グループのマウス(IMQマウス、IMQ + NMNマウス)には過剰な表皮増殖、脾腫、および炎症反応が観察されましたが、イミキモド(IMQ)の塗布から5日後を比較すると、NMNを補給したマウス(IMQ + NMNマウス)では炎症反応が軽減されていました。

脾臓は、感染や急性・慢性の炎症によって肥大化する(脾腫)ことが分かっています。そこで今回の実験では、炎症の評価の一つとして脾臓の大きさも比較しました。
その結果、イミキモド(IMQ)を塗布したIMQ グループのマウスの脾臓は肥大化していました。しかしNMNを補給したマウス(IMQ + NMNマウス)においては実験終了後、一度肥大化した脾臓のサイズや重量が改善されていました。
※2:NCBI(国立バイオテクノロジー情報センター)が提供・維持管理している遺伝子発現情報のデータベース

炎症からの回復に対する評価
NAD+依存性デアセチラーゼであるタンパク質SIRT1も、NAD+同様に酸化ストレスと炎症反応の緩和に大きな役割を持っていることが明らかになっています。
GEOデータベース※2によると、乾癬患者の病変組織ではSIRT1の発現レベルが大幅に低下し、炎症反応を促進させていました。事実、IMQ グループのマウスもSIRT1発現レベルの低下を確認しました。
しかし、NMNを補給したマウス(IMQ + NMNマウス)ではSIRT1の減少が抑制されるとともに炎症から回復するスピードも早いことが分かりました。

また、 SIRT1には、ミトコンドリア生合成に必須のタンパク質PGC-1αの活性化を通じてミトコンドリア機能を向上させる働きもあります。今回の実験でも、NMNを補給したマウス(IMQ + NMNマウス)にはmtDNA(ミトコンドリア内のDNA)のコピーが増加し、ミトコンドリア機能が改善されていました。
ミトコンドリアの機能異常が慢性炎症を引き起こし、さまざまな疾患の発症に展開することはよく知られています。すなわち、SIRT1を活性化するとともにミトコンドリア機能を改善へと導くNMNは、慢性炎症の1つである乾癬の制御・回復に寄与すると考えられます。
※グラフ・写真は論文原文より改題

NMNは乾癬治療を身体の内側からサポートする可能性がある
上記の実験結果は、NMNが乾癬の症状を緩和し、治療にも有用な薬剤である可能性を報告しています。
医療機関における乾癬の治療には、「外用療法(塗り薬)」「光線療法(紫外線療法)」「内服療法(飲み薬)」「注射療法」があります。一方で、日常におけるセルフケアも乾癬の予防や症状のコントロールには有効とされています。

NMNの摂取により得られるNAD+は体内で顕著な抗炎症作用を発揮することが知られていますが、NMNおよびNAD+の補給による乾癬治療の研究は現在も進行中です。セルフケアの一環としてNMNを生活に取り入れるのが良いでしょう。

【参考】
参考論文:【The Role of Nicotinamide Mononucleotide Supplementation in Psoriasis Treatment】
直訳:ニコチンアミドモノヌクレオチド補充の役割と乾癬治療
雑誌名・巻号/Antioxidants (Basel). 2024 Feb 1;13(2):186.
論文URLはこちら(PubMed)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38397784/

 

 

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