研究コラム

腎臓を元気にして、全身の健康につなげるNMN

縁の下の力持ち 腎臓のはたらき
体の中の臓器とは?と聞かれた時に、心臓や肝臓と答える方は多いでしょう。
一般的に臓器とは胸腔・腹腔にある器官のことを指し、「五臓六腑」で知られる5つの臓器が心臓・肝臓・肺臓・脾臓、そして今回の論文の主役である腎臓です。

腎臓の主な働きは、「尿を作ること」です。ヒトの体内には生活環境や食生活によりさまざまな老廃物や毒素が生じます。腎臓は、これらの身体に不要な成分を血液からろ過し、水分と共に尿として体外に排出する、いわゆる「デトックス」的な役割を担っています。

ろ過された尿(原尿=尿のもと)には、老廃物や毒素だけではなく、アミノ酸やブドウ糖などの栄養素やさまざまなミネラル(電解質)等、身体の機能維持に必要な成分も多く含まれています。腎臓は、これらの身体に必要な成分を再吸収して血液に戻し、体内の環境を整えています。

そのほかにも腎臓には、造血ホルモンの生産や血圧の調整、カルシウムの吸収を促すビタミンDの活性化などさまざまな機能があります。すなわち腎臓は、陰ながら全身の健康をサポートする、まさに縁の下の力持ち的な臓器なのです。

縁の下の力持ち 腎臓のはたらき
臓器の中でも特に肝臓と腎臓は、何かしらの異常があっても自覚症状がなく、本人が気付かないまま病気が進行してしまう可能性が高いため「沈黙の臓器」と呼ばれています。

腎臓の働きが低下すると、老廃物や毒素、余分な水分などを体外に排泄できなくなり、むくみや尿異常、倦怠感など身体にさまざまな症状が現れます。腎臓の働きが正常の30%以下に低下した状態を腎不全と呼び、腎不全には数時間から数日の間で急激に腎臓の働きが低下する「急性腎障害(AKI)」と、長期間かけて腎臓の働きが低下する「慢性腎不全(CKD)」の2種類があります。

今回の論文のテーマである急性腎障害(AKI)を発症すると乏尿や無尿になり、高窒素血症を引き起こします。適切な治療によって回復する可能性はありますが、重篤な場合は人工透析が必要になります。

急性腎障害(AKI)の原因の1つに薬剤があり、薬剤が原因の急性腎障害(AKI)を薬剤性急性腎障害と呼びます。急性腎障害(AKI)患者の14〜26%は抗菌薬、抗がん薬、抗リウマチ薬、痛風治療薬、造影剤など腎臓以外の疾患で投与される薬剤が原因だと考えられています。また、加齢により腎の重量と体積が減少し、急性腎障害(AKI)の発症頻度が高くなることも知られています。

腎機能障害にNMNはどのように作用するのか?
実験の内容
実験では、①3ヶ月齢の若齢マウス②20ヶ月齢の老齢マウスの2つのグループに分け、抗がん剤の一種であり、腎臓にダメージを与える副作用があることで知られるシプラチンを実験開始1日目に腹腔内注入によって投与し、人為的に急性腎障害(AKI)を発症させました。

さらにシスプラチンを注入して急性腎障害(AKI)を発症させた2つのグループのAKIマウスを下記のとおりに分けて、実験4日目にそれぞれの腎機能と腎細胞の形態、ミトコンドリア量を評価しました。

①-1:若齢マウス・NMN投与なし
①―2:若齢マウス・NMN投与あり(500mg/kg/日)
②-1:老齢マウス・NMN投与なし
②-2:老齢マウス・NMN投与あり(500mg/kg/日)
※NMNは腹腔内注入

■腎機能に関する評価
BUN(尿素窒素)とクレアチニンは腎機能の低下によって血液中に増加する老廃物であり、腎機能を評価する指標として用いられています。NMNを腹腔内注入したAKIマウスは若齢マウス・老齢マウス共にBUN(尿素窒素)と血清クレアチニンの値が抑えられていました。

■腎細胞に関する評価
腎細胞の損傷、細胞死(アポトーシス)に関しては、下記3つの方法で評価しました。
1.ヘマトキシリン・エオジン染色により尿細管の損傷を評価
特に薬物性の腎障害では腎臓中の尿細管に損傷が見られます。尿細管の損傷を確認するために、AKIマウスにヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を行いました。損傷がある場合は青く染色されますが、老齢マウスでは、NMNを投与したマウスの方が青い点の数が少ない=損傷が少ないことを確認できました。

2.カスパーゼ-3量の測定
近年の研究では、タンパク尿(尿中に血清中のタンパク質が漏れ出た尿)が腎機能低下のサインの1つであることが明らかになっています。蛋白質分解酵素であるカスパーゼは、タンパク質を分解することでアポトーシス(遺伝子によりあらかじめ決められたプログラムに従ってもたらされる、細胞の自然死)によって細胞を死へと導きます。特にカスパーゼ-3はアポトーシスを実行する過程において中心的な存在で、活性化を確認できれば組織・細胞内のタンパク質の抗アポトーシス機能が失われていると理解します。

組織化学的アポトーシス検出法であるカスパーゼ-3免疫染色では、試験紙の色が黒く濃いほど活性化したカスパーゼ-3量が多い=尿細管細胞がダメージを受けていることを指します。NMNを投与したAKIマウスは、若齢・老齢マウス共にアポトーシスの原因となるカスパーゼ-3の量の増加が抑えられていることが分かりました。

3.TUNEL染色によりアポトーシスした細胞を検出
細胞のアポトーシスを裏付ける「断片化したDNA」を検出可能なTUNEL染色を行い、アポトーシスした細胞を検出しました。NMNを投与したAKIマウスは、若齢・老齢共にTUNEL陽性細胞が減少し、アポトーシスが抑えられていました。


■ミトコンドリア量の評価
急性腎障害(AKI)が悪化する過程では、ミトコンドリアを多く含む近位尿細管細胞にミトコンドリア障害が生じやすいとされています。NMN投与/未投与の老齢AKIマウスの腎組織内ミトコンドリアの数を電子顕微鏡で測定したところ、NMNを投与したマウスの方が未投与のマウスよりもミトコンドリア量の減少が小さいことが判明しました。すなわち、NMNがミトコンドリア機能の改善・向上を促進したと考えられます。

※グラフ・写真は論文原文より改題

 

NMNは腎障害および薬剤による副作用を抑制する可能性を秘めている
この実験では、NMNが腎細胞のアポトーシスを抑制するとともに、特に高齢者の急性腎障害(AKI)治療に有用である可能性が明らかになりました。

今回はシスプラチンの副作用である腎毒性を利用して急性腎障害(AKI)を人為的に発症させた上で実験を行いましたが、本来シスプラチンは、発売から40年以上たった現在でも多くの医療現場で抗がん剤治療の第一選択薬として用いられている歴史ある抗がん剤です。今後さらにNMNの研究が進めば、NMNが薬剤性急性腎障害も含むさまざまな腎疾患の予防や治療の一助として認められる日も来るかもしれません。

腎臓は「沈黙の臓器」の呼び名の通り腎疾患に罹患しても自覚症状がほとんどないことに加えて、一度機能が失われると回復が難しい臓器です。だからこそ日常生活における腎臓ケアが重要です。
特に夏は脱水症状を起こしやすく、腎臓に負担がかかりやすい季節です。
生活にNMNを取り入れて、働き者の腎臓を労いましょう。

【参考】
参考論文:【Nicotinamide Mononucleotide, an NAD+ Precursor, Rescues Age-Associated Susceptibility to AKI in a Sirtuin 1-Dependent Manner】
直訳:ニコチンアミドモノヌクレオチド(NAD+前駆体)は、サーチュイン1依存的な方法で加齢に関連する急性腎障害(AKI)への感受性を改善する
雑誌名・巻号/J Am Soc Nephrol. 2017 Aug;28(8):2337-2352.
論文URLはこちら(PubMed)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28246130/

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