研究コラム

NMNが卵母細胞をBBPのリスクから守り、育てる可能性が明らかに

今回はNMNが、フタル酸エステルの一種であるBBP(フタル酸ベンジルブチル)が誘発する生殖機能障害を抑制することを報告した研究論文を紹介いたします。

BBPは現代社会においてさまざまな製品に使用されている化学物質です。BBPは生命体に対して毒性作用を持つと考えられており、生殖機能障害もその1つです。
しかし、NMN治療でBBPによる生殖機能障害を回避できる可能性が見えてきました。

このコラムを読んでほしい方

✅ BBPの摂取が妊娠にどのようなリスクを及ぼすのか知りたい方
✅ 将来的に妊娠を望んでいる方
✅ 出産に向けて、子どもへのリスクを可能な限り排除したい方
✅ 卵母細胞を健康に保ちたい方

BBPとは?

BBPは、化学物質であるフタル酸エステルの一種で、政府の環境施策上では化学物質排出把握管理促進法第一種指定化学物質(政令番号:273)に指定されています。
プラスチックス添加剤(可塑剤)で、床壁用タイルや工場のコンベアベルト、合成皮革、室内装飾用品などに用いられています。
動物実験では、BBPを曝露することでさまざまな毒性が誘発されることが既に報告されていますが、ヒトにおいては実験データが少なく毒性については不明なままです。しかし欧州化学局 (European Chemical Bureau=ECB)ではBBPを有毒物質に分類しています。
一方、フタル酸エステル全般については、内分泌かく乱性や生殖毒性、発がん性などヒトに悪影響を及ぼしうる物質と指摘されており、国内外で使用規制がある物質も一部あります。

例えば日本では、2002年8月に厚生労働省告示第267号で、「フタル酸エステル2物質(DEHP、DINP)を原材料として用いたポリ塩化ビニルを主成分とする合成樹脂をおもちゃの原材料として用いてはならない」と定められました。また同年、油脂または脂肪性食品を含有する食品に接触する器具/容器包装について、PVCを主成分とする合成樹脂におけるDEHPの使用が原則禁止されました。

さらにEU REACH規則により2020年7月7日から、フタル酸エステルの4物質(DEHP、DBP、BBP、DIBP)の合計で0.1重量%以上を含有する成形品の上市が制限されています。

フタル酸エステルへの暴露による潜在的な健康影響

・テストステロン(男性ホルモン) レベルの低下
・女性及び男性の生殖能力の低下
・赤ちゃんに認識又は行動障害をもたらす可能性
・内分泌機能及び甲状腺ホルモン機能の変更
・腎臓及び肝臓への毒性
・ある種のがんに関係
・2型糖尿病、インスリン抵抗性、アレルギー、ぜんそく

BBPは日常に溢れている

BBPは、PVCフローリングに代表される塩化ビニル製の床材をメインに、テーブルクロス等の防水シート、ソファやコートに使用される合成皮革、ビニール手袋や接着剤などの製造に広く使用されています。
また、植物油や弁当など、さまざまな食品からも微量のBBPが確認されています。特にBBPは水生生物(魚)の体内に濃縮されることが多いため、魚肉練製品などは納得できるかもしれません。そのほか空気、飲料水、ハウスダストからもBBPが検出されています。
さらにBBPそのものやBBP含有製品の製造過程、廃棄時に環境中にBBPが放出されることもあります。BBPに曝露すると人体に有害な影響を及ぼす可能性があると言われています。
しかし、ヒトの生殖機能へのBBPの影響についてはまだ直接的な証拠はありません。

今回ご紹介する論文では、BBPが誘発する女性の生殖毒性とそれに対してNMNがどのように作用するか調査する目的で実験を行っています。

実験の内容

母体年齢が5~6週齢の雌マウスを用意し、下記の3グループに分けて10日間飼育しました。それぞれに排卵誘発剤(ホルモン)を8日目と10日目に投与して過排卵を促進した後に卵母細胞の様子を観察し、NMN投与の影響について調査しました。

①BBP/NMN無投与の雌マウス
②BBP(1.5 mg/kg/日)を腹腔内投与する雌マウス
③BBP(1.5 mg/kg/日)+NMN(200mg/kg/日)を腹腔内投与する雌マウス

※NMNは腹腔内注入
※1:phosphate buffered saline、リン酸緩衝塩液。溶液のpHが変動しにくくなる作用(緩衝能)がある試薬。化学物質を溶解させる際に生理食塩水を用いると、物質によってはpHが大きく変動し、強い酸やアルカリに変化する現象が起こる。PBSを用いることでその現象を防ぐ。

それぞれに排卵誘発剤(ホルモン)を8日目と10日目に投与して過排卵を促進した後に卵母細胞の様子を観察し、高齢マウスにおけるNMN投与の影響について調査しました。

■卵母細胞の膜電位に関する評価
ミトコンドリアでのATP合成を促進するJC-1染色によって、ミトコンドリアの膜電位※1を検査しました。
膜電位の高いミトコンドリアは赤いシグナルを示し、膜電位の低いミトコンドリアは緑のシグナルを示します。BBPに曝露された雌マウスの卵母細胞は緑のシグナルが多かったですが、NMNを投与した雌マウスは、BBPを摂取してもBBP未投与雌マウスと同じぐらい膜電位の低下が抑えられていることが分かります。
※1:ミトコンドリアの状態を理解する指標。膜電位が保たれる=ミトコンドリアの活性が維持されている=細胞が活動的である=生命維持を支えるATP等のエネルギーが産生されていることを指す

■酸化ストレスに関する評価
ミトコンドリアの機能不全の主な原因は、ROS(活性酸素種)の蓄積と酸化ストレスです。
ROSが酸化ストレスを生じさせることから、 それぞれのグループの卵母細胞中のROSレベルをジクロロフルオレセイン(DCFH)染色を実施して比較しました。

その結果、BBP雌マウスの卵母細胞は緑色に染色され、高いROSレベルを示しましたが、NMNを投与した雌マウスはBBP未接種の雌マウスと同等のROSレベルを示しました。これは、NMNにより酸化ストレスが抑制されたことを指しています。

■卵母細胞のアポトーシスに関する評価
過剰なROSの出現はDNA損傷の蓄積につながり、早期アポトーシス(細胞死)を誘発します。
そこで、各グループの卵母細胞のDNA損傷と早期アポトーシスのレベルをγ-H2A.X染色とアネキシンV染色によって調査しました。

アポトーシスした細胞は赤く染色されますが、BBP雌マウスではアポトーシスが多く見られました。一方で、NMNを投与した雌マウスはBBPを投与してもアポトーシスが抑制されていることが分かります。つまり、BBPへの曝露は早期アポトーシスを誘導し卵母細胞に悪影響をもたらしますが、NMNの投与によってその悪影響が効果的に軽減されたと考えられます。

※グラフ・写真は論文原文より改題

 

NMNはBBPのリスクを減らす可能性がある

これらの実験結果から、BBPが女性の生殖機能に及ぼす毒性の仕組みとNMNがその毒性リスクを軽減する治療法となる可能性が示されました。
BBPは塩化ビニルなどの柔らかいプラスチック製品をはじめ、さまざまなものに使用されています。また、特に香水、ヘアスプレーなどはBBPを使用していても「香料」とのみ記載されることが多いようです

BBPによるヒトの健康への毒性は明らかにされておらず、そこまで過敏になる必要はないとされているのが現状ですが、生殖影響については動物実験で明らかです。また、特に出生児に悪影響が認められていることから、妊娠中、あるいは妊娠を望む女性はBBPになるべく接触しない方が賢明と思われます。

しかしBBPは私たちの日常に溢れており、接触を避けて通れないのは前述の通りです。
それならば、NMNサプリを利用してみてはいかがでしょうか。BBPによる生殖機能低下のリスクを防ぎ、卵母細胞をイキイキとさせられるかもしれません。

【参考】
参考論文:【【Nicotinamide mononucleotide restores oxidative stress-related apoptosis of oocyte exposed to benzyl butyl phthalate in mice】
直訳:ニコチンアミドモノヌクレオチドは、マウスのベンジルブチルフタレートに曝露された卵母細胞の酸化ストレス関連アポトーシスを回復させる
雑誌名・巻号/Cell Prolif. 2023 Aug;56(8):e13419.
論文URLはこちら(PubMed)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36756972/

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