研究コラム

NMNは高齢妊娠・出産の光となるか —卵母細胞の質を改善—

今回は、NMNが高齢マウスの卵母細胞(卵子のもとになる細胞)の質を効果的に改善することを報告する研究論文を紹介いたします。
女性の加齢が卵母細胞の質の低下に強く影響を及ぼし、妊娠・出産を困難にしていることは事実ですが、明確な改善法はまだ存在しません。
しかしNMN治療が1つの手札になる可能性が見えてきました。

このコラムを読んでほしい方

✅ 妊活中で、卵子の受精能力を高めたい方
✅ 医療機関で卵子の質が低いと指摘された方
✅ 不妊治療を行っている方、開始しようとしている方
✅ 身体に無理なく妊活を始めたい方
✅ 高齢でも妊娠・出産を諦めたくない方
✅ 可能な限り自然妊娠を望む方

見妊孕能(妊娠する力)に重要なのは、卵母細胞の質

妊孕能(妊娠する力)を司る卵子は、
卵原細胞→1次卵母細胞→1次減数分裂→2次卵母細胞→2次減数分裂→卵子という過程を踏んで形成されます。
受精が成立すると卵子は受精卵となり、妊娠が確立します。

しかし、卵子に成熟する卵母細胞の割合はごくわずかで、ほとんどの卵母細胞は卵子に成熟しないまま消滅してしまいます。
その数も加齢に伴って減り、胎生20週には700万個だった数が出生時には200万個に。一般的に月経が開始となる思春期には20~30万個まで減少し、37歳をすぎるとさらに減少するスピードが加速します。

また、加齢に伴い卵母細胞は卵巣内で老化し、染色体異常が増加する=卵母細胞の質が低下すると考えられています。卵母細胞の質の低下はもちろん卵子自体の質の低下に直結し、自然妊娠する確率も低下します。
30歳が6ヶ月で自然妊娠する確率は77%であるのに対し、37歳を過ぎると62%、42歳では29%にまで下がることが研究により明らかになっています。

妊娠はいくつもの条件が重なって成立するため、一概に卵子の質の低下が不妊の原因とは限りませんが、卵子の質が低下することで、うまく受精できない卵子の割合が高くなること(不妊)、流産の可能性が高くなることは日本生殖医学会のデータでも明らかになっています。

細胞の機能改善に寄与するNMN。では卵母細胞へは?

NMNは、細胞内でNAD+に変換され、サーチュイン(長寿遺伝子)とミトコンドリアの活性化に利用されます。NAD+はすべての生命体にとって⽣きるために必須の分⼦であり、NMNの摂取はNAD+の数と質の向上につながります。そのためNMNには、加齢によって衰える臓器や機能の改善などが期待されています。

では、老化した卵母細胞の質にも効果が期待できるのでしょうか。もしも質を向上させられたら、高齢での自然出産も夢ではなくなるかもしれません。今回ご紹介する論文では、NAD +レベルの回復を促すNMNが、老化した卵母細胞の質の向上に有効なのではという仮説を立て、母体が高齢化したマウスを用いて実験を行っています。

実験の内容

母体年齢が6〜8週齢の若齢マウスと64〜68週齢の高齢マウスを用意し、以下の3グループに分けました。

①PBS※1を投与する若齢マウス
②PBSを投与する高齢マウス
③PBS+体重1kgあたり200 mg/日のNMNを投与する高齢マウス
※NMNは腹腔内注入
※1:phosphate buffered saline、リン酸緩衝塩液。溶液のpHが変動しにくくなる作用(緩衝能)がある試薬。化学物質を溶解させる際に生理食塩水を用いると、物質によってはpHが大きく変動し、強い酸やアルカリに変化する現象が起こる。PBSを用いることでその現象を防ぐ。

それぞれに排卵誘発剤(ホルモン)を8日目と10日目に投与して過排卵を促進した後に卵母細胞の様子を観察し、高齢マウスにおけるNMN投与の影響について調査しました。

■卵母細胞に関する評価
3グループの卵母細胞の数と割合を光学顕微鏡で観察した結果、NMNを投与した高齢マウスには卵胞に劣化こそ見られたものの、卵母細胞内のNAD +含有量が上昇したことにより、卵母細胞の発生率が向上しました。

卵母細胞の形態についても、異常形態の割合が少なくなりました。これは、NMNがNAD +レベルを回復させたことで高齢マウスの生殖能力を改善したことを示唆しています。

また、NMNを投与した高齢マウスには、減数分裂能力と受精卵細胞の胚の成長に改善が見られました。すなわちNMNは、老化した卵母細胞の受精能力を高めながら胚胎の発育を促進すると考えられます。さらに単一細胞トランスクリプトーム解析※2では、NMNが老化した卵母細胞中のミトコンドリア機能を回復させることによってROS※3とDNA損傷の蓄積を抑制し、卵母細胞のアポトーシスを抑制することも示されました。

2:細胞集団に対する単一細胞レベルの網羅的遺伝子発現解析。一つひとつの細胞を解析することでより深く生体反応を理解可能
※3:活性酸素種。ミトコンドリアの電子伝達系における副産物であり、細胞毒性を持つため過剰に蓄積すると細胞傷害を引き起こす

上図:NMN投与による卵母細胞の質向上のメカニズ(左:高齢マウスNMN投与なし/右:高齢マウスNMN投与)

※グラフ・写真は論文原文より改題

 

NMNが妊娠・出産を望む高齢女性の希望の光に!?

今回の実験では、NMNの補給が老化した卵母細胞を保護し、高齢女性の生殖機能改善と生殖補助医療(ART)の一助となる可能性が見えてきました。
特にNMNは人体への高い安全性が確認されているので、妊娠前・妊娠中も母体と子どもの身体にマイナスの影響はないと考えられています。
現在妊活に苦戦している方はもちろん、今後妊活をスタートする方も、NMNを妊活に取り入れてみてはいかがでしょうか。NMNを摂取する主な方法にはサプリと点滴がありますが、サプリなら点滴よりも安価で手軽に妊活を始められます。

ただしどんなに優れたサプリでも過剰摂取は逆効果になる可能性があります。信頼できる医療機関に相談し、自身の最適値を見極めた上で摂取することを推奨します。

【参考】
参考論文:【Nicotinamide Mononucleotide Supplementation Reverses the Declining Quality of Maternally Aged Oocytes】
直訳:ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の補給は、母体年齢による卵母細胞の質の低下を逆転させる
雑誌名・巻号/Cell Rep. 2020 Aug 4;32(5):107987.
論文URLはこちら(PubMed)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32755581/

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