前回のコラムでは、NMNそのものが体の中で働くのではなく、体内でNAD⁺に変換され、そのNAD⁺が補酵素として生命活動を支えていることについて触れてきました。
今回は、そのNAD⁺がどのように働いているのかについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
前回のコラムはこちら▼
NMNの役割とは?実は重要なのはNAD⁺
NAD⁺の2つの働き方
前回、NAD⁺が
- ミトコンドリアでエネルギーを作ることを助ける
- DNA修復など細胞のさまざまな働きを支える
といった役割を持つことをご紹介しました。
実は、NAD⁺はこれらの働きを支える際に、大きく分けて2つの方法で活躍しています。
- 1. 電子や水素を受け取り、必要な場所へ運ぶ働き
- 2. 自らが材料となり、酵素が働くために消費される働き
つまり、NAD⁺は「運び役」と「材料役」という2つの顔を持っているのです。
少しイメージしやすくするために、今回は列車に例えて説明してみます。
① 荷物を運ぶ「貨物列車」としてのNAD⁺
エネルギー産生のため、材料を運搬する
NAD⁺は、細かく見ると
-ADPリボース
-ニコチンアミド
という2つの部分からできています。
これを列車に例えると、ADPリボースが機関車、ニコチンアミドが空のコンテナを積んだ貨車です。この貨物列車(NAD⁺)には、ミトコンドリア内で燃料となる電子や水素を届ける仕事があります。
貨物列車NAD⁺は、栄養素を分解する過程で電子や水素(=荷物)を積み込みます。荷物を積んだ状態になると、列車は「NADH」という名前に変わります。荷物を積んだ貨物列車NADHは発電所内の「電子伝達系」という駅に到着すると荷物を降ろし、再び空の貨物列車NAD⁺へ戻ります。
補足:電子伝達系とは?
細胞内の「エネルギー工場」であるミトコンドリアの中には、電子伝達系とATP合成酵素からなる「発電設備」があります。電子伝達系がNADHの運んできた電子を利用してATPを作るための力を蓄え、その力を使ってATP合成酵素という酵素がATPを作ります。
NAD⁺とNADHの行き来
― エネルギー産生を支える仕組み ―

このように、
NAD⁺ → NADH → NAD⁺
と姿を変えながら、何度も電子や水素を運び続けることで、細胞がエネルギー(ATP)を作ることを支えています。
② 材料として使われるNAD⁺
NAD⁺には、荷物を運ぶ以外にも重要な役割があります。それは、自らが材料となって酵素に利用されることです。こちらも列車に例えてみましょう。
ヒストン急行
ヒストンという高速列車があります。
この列車には、DNA修復や遺伝子を働かせる専門家たちが乗っています。
普段は急いで働く必要がないため、列車の最後尾には「アセチル基」という重い車両が連結されています。重いアセチル基が付いている間は、高速列車ヒストンはゆっくりしか走れません。
ところが、DNAが傷つくなどして専門家たちが急いで現場へ向かわなければならない場面がやってきました。
そこで登場するのが、サーチュインという鉄道員です。
サーチュインは、NAD⁺という貨物列車の力を借りて、重い車両アセチル基を切り離します。アセチル基が外れた列車ヒストンはスピードを上げ、専門家たちは素早く目的地へ向かい、DNAの修復や細胞の働きを支えることができるようになります。
NAD⁺ が材料として使われる働き




一方、NAD⁺は、自分自身の一部を使ってアセチル基を引き受けます。
その結果、NAD⁺は分解され、
-ニコチンアミド
-O-アセチルADPリボース
という別々の物質になります。
つまり、この場面ではNAD⁺は荷物を運ぶのではなく、酵素が働くための材料として使われたのです。
このようにNAD⁺が消費される仕組みは、サーチュインだけでなく、DNA修復に関わるさまざまな酵素でも見られます。そのため、細胞の中では使われたNAD⁺を新たに作り直したり、NMNなどから補給したりすることが大切になります。
まとめ
このように、NAD⁺には大きく分けて2つの働き方があります。
- 電子や水素を運び、エネルギー産生を支える「運び役」
- 酵素が働くための材料となる「材料役」
どちらも細胞が正常に働くためには欠かせない重要な役割です。
次回以降のコラムでは、今回ご紹介した「運び役」と「材料役」について、それぞれの仕組みをさらに詳しく解説していきます。

清水 宣明【博士(工学)】
東京大学、カロリンスカ研究所(スウェーデン)など国内外の研究機関において、20年以上にわたり生命科学の研究に取り組む。健康維持や老化に関わる生命メカニズムの解明を目指し、臨床研究から分子レベルの基礎研究まで幅広い領域を横断しながら、多面的な視点で研究活動を展開してきた。
プロフィール