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加齢に伴う、脳内(視床下部)NAD+の特殊な調節機構に関する論文を発表しました。

ミライラボバイオサイエンスがメディカルサポートを行っている東京銀座ウェルネス&エイジングクリニック の研究室責任者であるショーン・ジョンソン博士ら(神戸医療産業都市推進機構 先端医療研究センター、一般社団法人プロダクティブ・エイジング研究機構、米国ワシントン大学)の共同研究成果が、学術雑誌nature partner journals Aging (npj Aging)誌に掲載されました。

この研究ではまず、老化のコントロールセンターとして脳内で機能する「視床下部」という部分に含まれているNAD+を測定する新しい方法を開発しました。 視床下部は、機能を分担しているいくつかの「神経核」と呼ばれる領域が集合して成り立っています。今回開発した方法によって、それぞれの神経核におけるNAD+の加齢に伴う変化を測定することができるようになりました。またさらに、NAD+ の合成酵素であるeNAMPTを含む細胞外小胞 (eNAMPT-EVs)を投与すると、視床下部の特定の神経核で NAD+ が増加することも確認されました。

これらの成果を2023年1月25日にnature partner journals Aging(npj Aging)誌に発表しました(論文は以下のサイトにおいて閲覧できます)。

https://www.nature.com/articles/s41514-023-00098-1

全身の様々な組織中に含まれているNAD+の加齢に伴う減少は、生理的機能不全を引き起こし、老化の重要な引き金になると考えられています。視床下部は老化のコントロールセンターであり、視床下部のNAD+を維持することは抗老化や長寿にとって重要です。視床下部は、代謝、睡眠、食事などの機能を制御しています。視床下部には、神経核と呼ばれるいくつかの領域があり、それぞれ固有の機能と特徴を有しています。従来、これらの神経核におけるNAD+の変化を正確に測定することはできませんでした。今回、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)と高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を組み合わせた手法を新たに開発し、視床下部各神経核のNAD+量を正確に測定することが可能になりました。

視床下部の神経核のNAD+含有量を、老齢の22ヶ月齢のマウスと中年の17ヶ月齢のマウスとの間で比較しました。 NAD+ は、弓状核 (ARC)、腹内側核 (VMH)、および外側核 (LH) で、加齢によって有意に減少しましたが、背内側核 (DMH) では減少しませんでした。 ニコチンアミドモノヌクレオチド (NMN) は、これらすべての神経核で NAD+ レベルを有意に増加させました。 興味深いことに、分泌型ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ含有細胞外小胞 (eNampt-EVs) の投与により、ARC および DMH の NAD+ レベルが増加しました。 これらの結果は、加齢に伴う視床下部における NAD+ 調節のユニークな特性を明らかにしました。

遺伝子発現解析により、視床下部における NAD+ の減少のメカニズムを検討しました。NAD+ の生合成と消費に関連する酵素の遺伝子発現は、加齢の影響を受けないように見えました。一方で、DNA 損傷と炎症のマーカー遺伝子の発現が上昇しており、これらが NAD+ 濃度の低下に寄与している可能性があることが示唆されました。

今回開発したこの手法と、視床下部神経核のNAD+変化に関する知見は、視床下部におけるNAD+生合成の制御とその老化および長寿の制御における役割を理解する上で重要です。eNampt-EVsを用いた組織選択的なNAD+の増加法は、老化におけるNAD+生合成の重要性を理解するための新たなツールとなるとともに、今後あらたに効果的なアンチエイジング方法がいくつも開発されていく基盤になると期待できます。

本研究は、AMED「老化メカニズムの解明•制御プロジェクト」(令和4年に終了)の「個体•臓器老化研究拠点」における研究の一環として、神戸医療産業都市推進機構先端医療研究センター老化機構研究部(当時)とIRPAとの共同研究として行われました。

■論文情報
表題:Quantification of localized NAD+ changes reveals unique specificity of NAD+ regulation in the hypothalamus
研究チーム:Sean Johnson(神戸医療産業都市推進機構先端医療センター老化機構推進部(当時))
吉岡潔志(一般社団法人プロダクティブ•エイジング研究機構;IRPA)
Cynthia S. Brace(ワシントン大学医学部発生生物学部門)
今井 眞一郎(ワシントン大学医学部発生生物学部門•医学部門;一般社団法人プロダクティブ•エイジング研究機構(IRPA)代表理事)
掲載誌:npj Aging
論文URL:https://www.nature.com/articles/s41514-023-00098-1

■東京銀座ウェルネス&エイジングクリニック
公式サイト:https://tgwaclinic.com/

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